
アスペルガー夫との生活に悩んでいると、専門家からも、周りの人からも、本でも、「離婚」という言葉が返ってくることが多いと思います。
「そのアドバイスは、間違っていないだろうし、一理あるとは思う。でも、なぜか腑に落ちない」
そう感じているなら、その感覚の正体について、私自身の8年間の経験を踏まえてお伝えしたいことがあります。
私も、「離婚した方がいい」と言われたことがあります。
精神科医でもある産業医の先生からでした。夫婦カウンセリングのために先生のもとに通っている何組ものご夫婦を見ての、アドバイスでした。
「ご主人がご自身のアスペルガーを認めない限り、夫婦関係の継続は難しいと思います」
間違っていない、と思いました。先生は多くのご夫婦を見てきた専門家です。そのアドバイスには確かな根拠があるのもわかりました。
でも——どうしても、受け入れられなかったんです。
アスペルガー傾向の夫との生活に悩むとき、「離婚か継続か」という問いが頭をよぎらない人はいないと思います。本も、専門家も、周りの人も、多くの場合、同じ方向を示す。
でも「腑に落ちない」と感じるなら、それはあなたの中に、ちゃんと理由があるのだと思うんです。
8年間、その問いの前で立ち尽くしていました
アスペルガー夫との生活がきつくなってきたとき、私の頭にも、「離婚した方がよいのか」という問いが浮かばなかったかというと嘘になります。
夫は、私の「おはよう」に返事もしなくなっていました。顔を合わせるだけでため息をつく。廊下ですれ違えば、チッという舌打ちが聞こえる。
つらかったし、怖かったのです。
どうしたらよいのか、本をあさり、ネットで調べ、専門家にも相談しました。そのたびに返ってきた言葉は、おおむね似た方向でした。
「相手が変わろうとしない限り、あなたがどれだけ努力しても限界があります」
「あなたはカサンドラ症候群の状態にあります。そこまで追い詰められている場合は、離れることも選択肢に入れてください」
それは正しいアドバイスだったと思います。実際に、離婚という選択が人生を好転させた方はたくさんいらっしゃいます。
ただ——私には、腑に落ちなかったんです。
「離婚が答えだ」と思えなかったのです。かといって「継続できる自信がある」ともいえませんでした。その問いの前で、何年も立ち尽くしていた気がします。
カウンセラーも本も「離婚を勧める」——腑に落ちなかった本当の理由
専門家が離婚を勧める背景には、明確な理由があります。アスペルガー特性のあるパートナーとの関係では、一方が努力し続けても関係が改善しにくいケースが多く、長期にわたる消耗が身体・精神に影響を与えることが医学的にも指摘されています。
そのアドバイスは、多くの方にとって現実的な選択肢を示してくれるものです。
でも——私は、それが受け入れられなかったのです。
なぜ一歩を踏み出せなかったのか。
ずっとわからなかったのですが、今ならわかります。
息子が生まれて、私がまだ育休中だった頃の記憶を、ずっと持ち続けていたからです。
あの頃の夫は、優しかった。三人の家庭は、温かかった。夫婦として笑い合えた時間が、確かにあったんです。
「あの頃の夫が本物だった」と信じていました。だから「私が努力すれば、その頃の家族の温かさを取り戻せる」と、どこかで信じていたのです。
専門家のアドバイスは、「今の夫婦関係」だけを見ていました。でも私の中には、「かつての家族の温かさ」も、ちゃんと存在していたから。
それが私を踏み止まらせていたんだと、今ならわかります。
私はカサンドラ症候群と言われ、そこから抜け出すために「離婚を勧める」というアドバイスは、現実的には間違っていなかったかもしれません。でも、私には、それが唯一の正解だとは思えなかったんです。諦めきれないものが、私の中にありました。
私の「腑に落ちなかった」という感覚は、自分の内側から来ていた、正直な声だったのだと思います。
もしあなたの中にも「腑に落ちない」という感覚があるなら、それを消そうとしなくていいと思います。その声が、次の問いを教えてくれるはずですから。
「正しいアドバイス」がすべて裏目に出た理由
ある本には、「感謝を伝えましょう」と書いてあり、それを試してみたこともありました。「ありがとう、あなたに指摘されたことを改善しようと思う」と伝えたこともありました。
でも——効かなかった。むしろどんどん悪くなっていきました。
そのとき初めて気づいたんです。
これは「うちの夫の話」じゃない、と。
本に書いてあることは、どこかの誰かに向けた一般的なアドバイスです。「離婚を勧める」専門家のアドバイスも、他のご夫婦の事例をもとにしたもの。
「感謝を伝えることで関係が変わる旦那さん」には、効くのかもしれません。でも「うちの夫」には、効きませんでした。
「私のやり方が悪かった」わけじゃなかったのかもしれません。「うちの夫に合う答え」が、まだ見つかっていなかっただけだったのです。
その気づきが、「離婚か継続か」という問いとの向き合い方を変えるきっかけになりました。
「離婚か継続か」より先に、必要なことがあった
あなたも、もしかしたら「離婚か継続か」を先に決めようとしているかもしれません。でも本当に必要だったのは、その前の段階でした。
「私は今、何を感じているのか」
「私は本当は、どうしたいのか」
あなたも、この問いが頭をかすめたことはありますか。すぐに答えが出ないかもしれません。長い間、自分の気持ちを後回しにしてきたなら、それも当然のことです。
でも、まずはその問いと向き合ってほしいんです。
私はその後、感情カウンセラーになって、自分自身の感情にも向き合い、解消していくうちに、夫の言動が少しずつ違う角度から見えてきました。なぜ私の言動が裏目に出ていたのか。夫はどういう受け取り方をする人だったのか。それがわかってくると、一般論をそのまま試す前に、「うちの夫には、どうだろう?」と自分で考えられるようになっていきました。
答えを外に探すのをやめて、自分の内側も見つめるようになっていきました。
そのプロセスを通じて、「自分で自分の人生の船を漕いでいる感覚」が、少しずつ戻ってきました。
「離婚か継続か」という問いへの答えは、外から与えられるものではありませんでした。自分の感情を整理し、自分の本音を知った先にしか、存在しなかったんです。
「自分で選んだ」ことだけが、後悔のない選択になる
離婚が正解という人は、います。
結婚生活を継続することが正解の人も、います。
どちらが正しいかは、外から決められません。専門家にも、本にも、決められないんです。
私が考える「後悔のない選択」の条件は、一つだけです。
「あなたがご自身で選んだかどうか」
誰かに言われたから離婚した。周りがそう言うから結婚生活を続けた。そういう選択には、「自分」が入っていません。
自分の感情に丁寧に向き合い、感情がクリアになった状態で、「私はどうしたいか」と問い続けた結果、出てくる答え——それは離婚であっても結婚生活の継続であっても、どちらでもいいんです。それは「あなたの心」がある選択だから。そんな選択こそが、後悔を残しにくいものだと私は思います。
一般的なカウンセラーや本の多くは、「離婚」という方向性を示すかもしれません。それが助けになる方々がいらっしゃるのも、事実です。
でも私は、あなたにとっての正解はあなた自身が選ぶものだと思います。
そして、一時の感情の高ぶりではなく、冷静かつフラットにあなたらしい選択をするために必要なのは、まず「自分の感情と向き合って、しっかり解消すること」だと、私自身の8年間が教えてくれました。
「離婚か結婚継続か」の問いと今、向き合っているあなたへ
「離婚か結婚継続か」——その問いの前で、あなたは今も揺れているかもしれません。
すぐに答えが出なくていいんです。答えが出ないことも、悪いことではありません。
焦って「どちらに決めるか」よりも、「今の自分が、何を感じているか」を知ることの方が、ずっと大切だと思います。
感情を丁寧に整理していった先にこそ、「私はこうしたい」という感覚が生まれてきます。
その感覚の先に、後悔のない選択があります。
もしあなたが他者から、本から薦められたアドバイスは「腑に落ちない」と感じているなら、それはあなたの内側からの正直な声かもしれません。その声を、どうか大切にしてください。
離婚か結婚継続か、どちらに進んでも、「私が選んだ」と言えるあなたになってほしいと、願っています。
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