アスペルガー夫にどう伝える?—医師の提案と夫の予想外の反応


「アスペルガーの傾向があることを、本人に伝えるべきか、伝えないべきか」——その考え方を、私自身の体験からお伝えします。

  • アスペルガーの傾向を夫に伝えるべきかどうかの判断軸
  • 「一人で伝えようとしない」という選択肢(第三者を介する方法)
  • 伝えた後に起きた現実と、それでも後悔しない理由
  • 「伝えること」より先に自分に問うべきこと

アスペルガーの傾向がある夫とともに生活しながら、一度はこの問いに突き当たったことがあるのではないでしょうか。「言ったとして、理解してもらえるのだろうか」「余計にこじれたら?」「夫が傷つくのでは?」——そんな迷いが、言葉を飲み込ませてしまう。

私も、同じ場所に長い間立ち尽くしていました。

これは、私が産業医(精神科医)の提案をきっかけに、夫に「アスペルガーの傾向があること」「私がカサンドラ状態にあること」を伝えるに至った実体験の記録です。夫の予想外の反応も、その後の現実も、包み隠さずお伝えします。

「伝えること」に答えを出す前に、ぜひ読んでいただけたら幸いです。


伝えると考えたきっかけ——メニエールの悪化と産業医への相談

息子が2〜3歳の頃のこと。

結婚してから息子が1歳半になるまで、私の育休中は、夫婦関係は非常に良好でした。夫は仕事も人付き合いも独身の頃と全く変わらずにできていたからです。帰宅後に、気が向けば子供の世話をすればよい、という感じ。

でも、私がフルタイムでコンサルタントに復職した頃から、私の持病のメニエールが、じわじわと悪化し始めました。特に育児に関して夫からの批判が増え、私は育児と仕事をひとりで抱え込みながら、夫との関係に消耗するようになりました。心身が、限界のサインを送り始めていたのだと思います。

会社の産業医(精神科医)に相談したのは、本当に追い詰められていたからでした。「夫のことを誰かに話したい」というより、「もうどうしたらいいかわからない」という感覚に近かったのです。

私の話をひと通り聞いた医師は、静かにこう言いました。

「あなたは、カサンドラ症候群の状態にあります」

カサンドラ症候群——アスペルガーの傾向を持つパートナーとの関係において、コミュニケーションのすれ違いが積み重なり、精神的・身体的に疲弊していく状態のことです。

「そういう名前があったのか」と思いました。長い間、「私がおかしいのかもしれない」「もっとうまくやれればいいのに」と感じてきた感覚に、ようやく輪郭がついた瞬間でした。

そして、こう相談しました。「夫には、どう伝えたらいいと思いますか。自分では、うまく言えそうになくて」と。


産業医の提案——「夫婦カウンセリング」

医師の提案は、予想外のものでした。

「旦那さんを、夫婦カウンセリングという形で連れてきたらどうですか。」

私ひとりが伝えようとするのではなく、医師という第三者を介して場をつくる——その発想は、私には思い浮かばなかったものです。

「でも、来てくれるでしょうか」と聞くと、「あなたのメニエールの症状がよくないから、旦那さんにもサポートしてほしいという伝え方がいいと思います」と。

夫はその頃はまだ、私の話を完全にシャットアウトするほどにはなっていませんでした。「私の体調を整えるための夫婦カウンセリング」という言葉を夫に伝えると、来てくれることになりました。


夫に何が伝えられたか

面談の形式は、こうでした。

まず私と医師の個別面談。次に、夫と医師の個別面談。同じ場所に夫婦がそろっているけれど、医師が一人ずつと話す形です。

私は待合室で夫の面談が終わるのを待ちながら、「医師は、何を伝えているんだろう」と考え続けていました。

後から医師に教えてもらった内容によると、夫には以下の4点が伝えられたとのことです。

  1. 私がカサンドラ状態にあること
  2. 彼にアスペルガーの傾向があること
  3. 脳の特性として、人の感情を理解するのが、生まれつき苦手なであること
  4. 夫婦関係を改善していくためには、彼自身が自らの特性を知り、感情を解する練習をしていく必要がある。例えば「小説を読んで人の感情を学ぶ」などのアプローチがあること

アスペルガーの傾向があることは、悪いことではない。ただ、その特性がどのような影響を夫婦関係にもたらしているかを、医師というニュートラルな立場から伝えてもらうことは、私ひとりではできないことでした。


夫の発言で気づいたこと

面談後、夫が医師に言った言葉を聞かされました。

「コンサルタントは女性でも、感情でなくロジックで物事を考えていると思っていた。だから妻もそうだと思っていた。」

この言葉を聞いたとき、私は複雑な気持ちになりました。

怒りではなく——「ああ、そういうことか」という、静かな納得に近い感覚でした。

夫は、私のことを「感情で動く人間」だと思っていなかったのです。コンサルタントという職業柄、ロジカルに動いているはずだ、と。だから私が「つらい」「わかってほしい」と伝えても、夫の中では「感情的になっている」ではなく、まったく別のカテゴリに処理されていたのかもしれません。

悪意はありませんでした。伝わっていなかっただけでした——それはわかりました。でも、だからといって、傷ついた事実が消えるわけではありませんでした。理解してもらえなかった悲しみや寂しさが癒えるわけでもありませんでした。


伝えた後も、夫は変わらなかった

面談を終えて帰宅してから、夫が私にこう言いました。

「もうあんな所にはいかない。俺を病気にしやがって。」

拍子抜けするほど、素直な言葉でした。怒りというよりは、傷ついた人の言葉に近いと感じました。

「病気だと言われた」という受け取り方をしていたのだと思います。アスペルガーの傾向があることを告知されたことが、夫にとっては「自分が欠陥品だと言われた」という体験になってしまったのかもしれません。

その後も、夫が変わろうとするということはありませんでした。逆にアスペルガーの傾向は、どんどん顕在化していったのです。

「伝えること」は、魔法ではない——それは、この体験を通じて身に染みて感じたことです。

それでも、伝えたことに後悔はありません。私が長い間「自分の言葉で伝えなければ」と抱えてきたものを、第三者を介して場をつくってもらうことで、少し肩の荷が下りた感覚がありました。


「伝える」より先に、自分に問うべきこと

旦那さんに「アスペルガーの傾向」を伝えることを考えているあなたへ、私が今思うことをお伝えします。

「伝えること」を考える前に、自分に問うてほしいことがあります。

あなたは今、ご自身の状態に気づいていますか?

私がメニエールの悪化で産業医に相談したとき、最初の問いは「夫にどう伝えるか」ではありませんでした。「自分がこんなにも消耗しているのは、なぜか。どうすればよいのか。」でした。

カサンドラ症候群という言葉を知り、「私が感じてきたことには、ちゃんと名前があった」と気づいたことが、最初の一歩でした。

夫に伝えるかどうかを考えるのは、その後でいい——私はそう感じています。

夫への期待と、自分の状態を知ること。両方あっていいと思います。ただ、まず自分が「何に消耗しているか」「何を求めているか」を言語化することで、見える景色が変わることもあります。

「アスペルガー夫婦カウンセリング」を検索しているあなたも、まず「自分はどんな状態にあるのか」に目を向けてみてください。そこから、何かが動き出すことがあります。——少なくとも私にとっては、それが最初の一歩になりました。

「夫に伝えるか」より先に、まず自分の状態に気づくこと。「私が消耗している」と言語化できた時から、見える景色が変わり始めます。そんな変化を共に歩めたらと思います。


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